COOKING INGREDIENTS
伝えていきたいこの仕事
大浦牛蒡
大浦牛蒡の作り方
大浦牛蒡の作り方
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●大浦牛蒡
使用する牛蒡は約10箱、80本くらいです。梅田牛蒡のようななかに空洞のある大きな牛蒡で、産地は埼玉や茨城などです。牛蒡をたわしで洗い、土を取ります。金属反応などを起こさないために、竹串で中に入っている泥とか、そういうものを細かく削っていくという感じで行います。竹串というのは面白くできていますよ。アジアというのは竹の文化なんです。箸も竹じゃないですか、籠なども竹偏みで、竹のいいところは、切らないと、一年で大きくなってしまうので、必ず間引きしなくちゃならない、大量に使っても自然のサイクルを狂わすことはありませんから、あまり環境破壊にはならないんです。竹というのは一本でいろいろな用途に使えます。
汚れを落とした牛蒡を切りますが、でたらめには切れません、気をつけなきゃいけないのは、我々が通常使う庖丁は片刃ですから、割れてしまうんです。ですからここではなるべく薄い両刃庖丁を使います。そして斜めにならないようにまっすぐに切ります。切る時の音で分かるのですが、斜めに庖丁が入ると微妙に角が割れるので、そこから煮崩れを起こして見た目も悪くなります。角を壊さないように、角が壊れてしまった時には少し綺麗に面取りするという感じにします。それに立てて煮るものなので、あまり長く切り過ぎてもいけません。鍋の高さに合わせて、なるべく無駄のないギリギリの長さに庖丁します。横に並べて煮てしまうと崩れてしまうため立てて煮るのですが、普通の鍋だとあまり入らないので、うちではフランス料理などで使われる、底の平たい洋鍋を使っています。
切った牛蒡を糠でもどしてアクを抜きます。牛蒡を縦に並べ、隙間の部分に牛蒡の細い部分を刺し入れて平らに鍋にきめます。毎年のことですが、その長さに切っておくと、重箱に何本分(何軒分)の数量になるかが決まるわけです。まず一段目を並べてから、一回全部、糠を満遍なくかけて、二段目を並べます。茹でる時には浮いてしまうんですが、約八〇本を二鍋に分けて作るので、この二鍋を同じ量にするため、牛蒡の嵩も同じにして、糠の量、水の量も同じにするということで、牛蒡をびっしり並べて入れています。また、煮た時に牛蒡の断面を傷めないように一度決めていくんです。まず大きなところだけを大まかに入れて、その隙間のところに、細いところに逆さに入れたりしてパズルのようにきっちりと埋めていき、茹でます。
牛蒡の太さとか産地、もちろん季節やその年の牛蒡の出来合いによって違いますが、最低で四日、普通は一週間くらいかけて、串で刺してスッと入っていくくらい柔らかくなるまでもどします。今回の牛蒡はいつもよりはちょっと太めです。ここで完全にもどし切っておかないと、今度は砂糖を入れていった時にどんどん締まって固くなってしまうので、ここで早く上げても結局次で時間がかかってしまいます。この間は一日で水が真っ黒くなってしまうので、糠を替えなければいけません。理想を言えば毎日替えたいところですが、糠を替えるだけで二時間以上かかるんですよ。新しい水と糠を入れるため、鍋を斜めにして、ホースで水を注ぎ込んで、回しながら汚れた水と糠を流していきます。ある程度中の汚い水が抜け、一応透き通るまで一時間半くらい水にさらします。アクの抜け具合にもよるんですけど、やはり二日に一回くらい、あまり替え過ぎても牛蒡の香りが飛んでしまいますから、だいたい三回ほど糠替えします。仕上がり具合といいますか、固さの目安で親父に言われていたのは、まず豆腐ぐらいに柔らかくなるようにと。豆腐くらいに柔らかくもどしたらそっと糠を抜いて鍋にきめ、今度は砂糖で牛蒡の固さに締めていく。それで仕上がった状態が普通に煮た牛蒡の固さになっていればいい……と。砂糖が相当量入りますので、もどす時には豆腐くらいに柔らかくもどしておかないと、味が入りきらずに牛蒡が固くなり、芯が残ってしまうんですね。
柔らかくもどったら、今度は水の中で糠をきれいに落としていきます。竹串をそのまま使うと牛蒡がボロボロになってしまうので、竹の敷笊の古くなったものをさらに木槌で柔らかくして用いています。牛蒡の穴の中に詰まっている糠は穴の開いているところをふっと吹いて抜きます。糠が残っていると腐敗の原因にもなってしまいますが、牛蒡の穴の中はかなり柔らかくなっていますから、直接流水を当てたりすると崩れてボロボロボロ抜けてしまいます。ですから中に水を溜めて、踊らせるようにして取るしかないんです。気を遣う作業ですね。
今度は敷笊を敷いた鍋にきめて、煮上げていきます。写真ではびっしり詰めてあるようにも見えますが、あまりぎちぎちに詰めないで(昆布巻きと同様に)少し隙間を空けます。また、鍋肌と真ん中では火の入り方が違い、煮え具合全然が違ってきますから、それぞれの柔らかさと大きさで、柔らかいものを鍋際に、固いものは真ん中へ持ってくるといった具合に、全部置く位置をきめてならべていきます。
最初にかぶる程度まで入れて煮詰めていき、つゆが足らなくなったら少し足したり、味をみたりと、敷き笊ごと引き上げたり、また火の回り加減で鍋を回したりしますので、そのためにも絶対に敷き笊が必要になるわけです。必ず二人くらいで、一日寝ずの番をするくらいこまめに繰り返します。
火にかけて沸く程度に火を入れ、沸いたらすぐ下ろして、また冷めたら火にかける。その繰り返しです。要は何日間保たせるかによって火の入れ方が違ってくる。また、砂糖も入りますけど、牛蒡の味を損なってもいけませんから、砂糖も一気に入れるわけにはいきません。徐々に徐々に時間をかけて入れていきます。病気治療の投薬と一緒で、いくら効くからって一気に打ち込めない、調味料も薬と同様で扱いには気を遣わなくてはいけないんですね。それに鍋に入ったら赤ん坊だと思わないといけません。そっとやらないと壊れてしまいます。鍋でも何でも、入ったらゆりかごだと思って丁寧に扱う。そうすると壊れません。
牛蒡の工程で一番大事なところというのは、もどすところもそうですが、炊く時の鍋ぎめというのはもっと重要です。きめてしまったらもう絶対動かせませんから、それと最初に切る(入れる)砂糖の量、これも大事です。ある程度締めるため、それに見合う量を最初に切らないといけないんですが、逆に切り過ぎてしまうと早く締まり、中まで味が入っていきません。要はその牛蒡の出来やもどり具合などで毎年違いますから、具体的に何グラムとは言えないんです。やはり何度かやってみた経験というのも必要になってきます。毎年毎年データは取ってありますが、使う砂糖の量的には最終的に同じになっていても、最初に切る量はその年によって違っています。 -
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大浦牛蒡1
使用する大浦牛蒡は、梅田牛蒡のように空洞のある太い牛蒡です。 -
大浦牛蒡2
たわしで洗って土を取ります。 -
大浦牛蒡3
竹串を使い、土などを細かく削るように掃除します。 -
大浦牛蒡4
根っこの部分は切り落としておきます。 -
大浦牛蒡5
なるべく薄い両刃庖丁でまっすぐに切ります。 -
大浦牛蒡6
鍋にきめる時のことを考えて、長さを合わせてきります。 -
大浦牛蒡7
鍋にきめていきます。煮崩れを防ぐために立てて並べます。 -
大浦牛蒡8
1段目を並べます。 -
大浦牛蒡9
糠を満遍なく掛け、2段目を並べていきます。 -
大浦牛蒡10
上から満遍なく糠を掛け、1週間くらいかけ、茹でてもどします。 -
大浦牛蒡11
2日に一度ぐらい糠と水を替えます。 -
大浦牛蒡12
水を替える時は、水が透き通るまで、1時間半くらいさらします。 -
大浦牛蒡13
同じように並べて糠を掛け、水を入れます。 -
大浦牛蒡14
竹串がスッと入るくらいまで柔らかく戻します。 -
大浦牛蒡15
水の中で糠をきれいに落とします。 -
大浦牛蒡16
敷き笊を敷いた鍋にきめていきます。 -
大浦牛蒡17
牛蒡の柔らかさをみて、鍋のどの位置に入れるか決めて並べます。
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COMMENT
「すべての品を手作りする」をコンセプトに、シリーズでお伝えする『伝えていきたいこの仕事 おせち料理編』。第10回は、【大浦牛蒡】をご紹介します。作り手は、鈴木直登師範(東京會舘2009年1月)です。